中庭へ視線を投げると、すっかり花のなくなった土の上へカマを振り下ろすジャージ姿が目に入った。
赤毛の長い髪を一本にまとめ、学校指定ではない庶民的な赤いジャージに千鳥格子のマフラーを巻いた女の子。
時折口元を埋めたマフラーの隙間から白い息が漏れている。
その横顔は真剣そのもの、私達が集団で見ているのにも気付いていないようだった。
「で、あの生徒がなんなんだよ」
「ユキくんとかなり親密そうだったの、そしたら右京が」
「花櫛さんのお怒り、十中八九原因はあの子やで」
「ふぅん」
要冬真は納得するように返事をして私達から中庭に視線を戻した。
私はいまいち納得出来ないが、まぁ彼の怒りが静まるのならなんでもいい。
それを聞いていたハルは、シィちゃんいい子だよ、と首を傾げた。
「園芸部のマドンナだもん」
マドンナって言い方が古い。
そんなことを考えながら視線をハルから中庭に戻すと、正門のある方角から人が入ってくるのが分かった。
ミルクチョコレートのような甘い色の髪が北風に遊ばれている。
背はそれほど高くはないが、綺麗な男の子。
少し幼さが残る頬とは不釣り合いに、口元は無表情で少し怖い印象だ。
その男の子に気付いたのか、“シィちゃん”は足音を聞いた犬のように即座に振り返り、カマを勢いよく投げ出して彼に向かって走り出した。
そして男の子の目の前で両手を広げた瞬間、回されそうになった腕を、彼は何食わぬ顔で避けた。
盛大に地面へ飛び込む音と、舞い上がった砂埃にまみれながら膝をついた彼女が彼に向かって何か叫んでいる。
「マドンナ…?」
扱いが可哀想だろ。
「めっちゃ嫌がられとるやん」
「蘭はツンデレですから」
私と右京の反応とほぼ同時に、窓の外から声が聞こえた。
下の方から窓越しに登場したのはまたもや知らぬ男の子。
私と右京は同時に大声を出し、要冬真は無言、ハルも驚く様子はなく呑気に「あーシバどうしたのー?」と高い声をあげた。
つうか知り合いかよ。


