覗かせていた顔を引っ込めると同時に彼らしくもない突っ込みを入れ、教室から遠ざかるユキくんと“シィ”さんを振り返ってから小さくため息をついた。
そんな右京の真意が分からず見上げていると、その視線に押されるように彼が口を開いた。
「シィはな、まぁ知り合いっちゅうか友達、そんな程度や」
「ふぅん、で、シィさんとやらとユキくんが話をしてたらなにか問題でも?」
「アホか!どんだけ鈍感じゃ自分。嫉妬や嫉妬、教室の隅の花櫛さん見とらんかったか?」
「見ろって言われてないから見てない」
素直に意見を述べたのに深い深い溜め息をつかれた。
心外すぎる。
場違いな私達を下級生が物珍しげに振り返りながら通り過ぎていった。
「机にぷっつぶしとったけど、気にしてるみたいにチラチラ見とったわ」
「え?海ちゃんが?」
海ちゃんが、嫉妬。
ユキくんと話している女の子に?
いまいち実感が沸かない。
だって学校に来ている以上人と話すのなんて避けては通れない道だ。
嫉妬、というのはつまり腹が立つとか妬ましいとか、何であの子と話すのふじこ!!
みたいなものだろう。
「ん~…」
「なんや鈴夏まさか」
「ん?」
「嫉妬、したことないん?」
恐ろしいモノでも口にするような、絶望的な表情で右京に見下ろされ少し気後れしながらも頷くと彼の顔は一瞬にしてムンクのように干からびた。
「え!なにいきなりどうしたの?誰かに生き血吸われた?葵だな!葵か!」
「ありえん!あんな一瞬モテ期みたいな男と付き合うとってそれは…」
「?」
「鈴夏乳ついとるんか?」
「シネ!」
右京の瞼に繰り出した二本指がすんでのところでよけられ、到達点を見失った人差し指と中指が空を描く。
ちっ!外した。
「おまっ!危ないやんけ何すんねん!」
渾身の目潰しは失敗に終わり手を引っ込めると、その先で右京が弾いたような大声をあげた。


