海ちゃんが何故不機嫌なのか分からず話は平行線をたどり、久遠寺くんが生徒会室にやってきても彼女が戻ってくることはなかった。
手分けして校内を捜索したはいいものの、敷地が広すぎて見つかるはずもない。
中庭以外の海ちゃんの場所なんて考えもつかなかった。
結局、要冬真が海ちゃんの家に連絡を入れたところ彼女はきちんと帰宅していたことが判明したのでその場は解散となったわけですが。
解せぬ。
翌日、口をついて出る白い溜め息を眺めながら私は一人唸っていた。
あの感じでは、何があったか私に話をしてくれるとは思えないし、当のユキ君に心当たりがないとなれば解決の糸口は掴めない。
「オハヨーサン、何しけた顔しとんねん」
背後でくぐもった声が聞こえ振り返ると、赤いバーバリーのマフラーで口元まで覆った灰色の髪が目に入った。
朝の登校時間が被る知り合いはコイツと委員長だけだ。
「おはよ」
歩みを止めぬまま短く返事をすると、小走りで隣に並んだ右京は私の煮え切らない顔を覗き込んで楽しそうに目を細めた。
「ははーんさては恋の悩みやな。お兄さんに話してみ」
この人生経験豊富な人生の先輩に、と付け加えて。
「人生経験じゃなくて人数経験でしょ、そういう事じゃないもん」
「何気に失礼な事言いよって、じゃあなんやねん、言うてみんしゃい」
何だか流れに乗せられ昨日の出来事を簡単に説明すると、右京は口の端を上げていやらしい笑顔を見せた。
「そりゃあ、樫雪くんが何かしたんやろ、女の子はな、デリケートやで。知らん間に傷つけてもうたんやな」
「えーじゃあ、海ちゃんから直接聞き出さないと何もわからんってこと?」
昇降口前に立ち止まり右京を見上げると、彼は少し考える素振りを見せてから、ポンと手を叩いた。
「昼休み、デートせぇへん?」
「は?」
「会長さんには内緒でな、待っとるわ」
待ち合わせ場所も告げず、右京背を向けヒラヒラと手を振りながら去っていった。


