「よしよし」
高いテノールがゆっくり頭を撫でていった事でやっと自分の状況を理解し、客観的に見て脳内に再生させる。
膝枕?
何故?
ソファーに座るハルと、その膝に頭を乗せる私。
「勇気出してきいてみたらいいと思うよー?」
顔を上げると、生暖かい目が私を見下ろしていた。
宥めるように髪を掬う暖かい手が視界の隅に映る。
いや…、別にいいけど子供扱いされてる感じがして腹立つ!
誰かに見られたら死ねる。
ハルに子供扱いとか、屈辱的すぎ。
「ちーっす!」
「うわぁぁぁあ!」
そう思った矢先、部室の扉が開いて誰が入ってきたので体ごと飛び跳ねてその男の前に飛び出した。
すげーグットタイミング!
こえー突然入ってくるな!
「うわビックリした!!なんだお前!」
そう言われれば。
部外者は私だった。
「あー、ヒナ!」
冷静になりつつある私をよそにハルは男に声をかけた。
黒くて短い髪から耳が覗いており、前髪はアシンメトリーで右側がやや長めだ。
大きな目に強気につり上がった眉、スポーツ少年というイメージに近い。
「おう、なんでお前部室に見知らぬ女連れ込んでんだよ」
ヒナ、という男はハルから私へ視線を移した。
それからしばらくこちらをガン見していた彼は、思い出したように手を叩く。
「あー、書記の」
「リンだよ!」
「そうそう!転校初日で要に跳び蹴りかました!」
嫌な認識。
「なんでこんなとこにいんだ?入部希望?」
「なんかねー、恥ずかしいから悩んでるの!」
私そっちのけで二人の話が進んでいく。
マジマジとその様子を眺めていると、“ヒナ”くんは思い出したようにこちらを振り返った。
「忘れてた、俺、雛菊優史(ひなぎく ゆうし)!よろしくな!」
爽やかなスポーツ少年・雛菊くんは、キラッとした笑顔で私の前に手を差し出した。
「あー…よろしく、仁東鈴…」
「リンだろ?知ってるよ」
ちげーよ!


