それはもう数週間も前の、秋らしいさが残っていた頃の話。
今は完全に衣替えも済んでしまってる。

しかしその数週間の間、特に何かが起きたわけでもない。

相変わらず生徒会の集まりがあるのと、頭を叩かれる事、それと周囲が進路を決めだした事以外は。



私は、きっと進学せず村に戻りラーメン屋を継ぐだろう。
要冬真は、そのままエスカレーターで梶谷大学にいくのだと思う。
ほとんどの生徒は、そうだからだ。



そうしたら、私と彼を繋ぐものは何なんだろうか。



不安、というわけではない。
ただ、そうなる事が解っているのに、それが自分の中で現実味を全く帯びていなかったのだ。







――…だからなんでそういう悩みをかかえている最中にコイツと二人きりになるんだよ







生徒会室には、私と要冬真しかいなかった。
それにはちゃんとした理由がある。
2年生組は、進路説明会。
ハルは花壇で土いじりしているので来るのが遅い。
久遠寺くんは進学の事で先生と話をしている。


みんな尤もらしい理由をつけて私に試練を与えているように見える!!



怖い!




「何お前突っ立ってんだ。待つならソファに座って待てよ」



いつもの調子でキツい口調が降ってくる。
彼は、なんだかの書類を見ていて忙しいようだ。
お前に構う暇はない、というオーラが伝わってくる。

私は邪魔者ですかそうですか!
ぐれてやる!


跳ね返りそうな勢いでソファへ倒れ込むと、シミ一つない天井が見えた。
生徒会室にもなじんだものだ。

自分が居ることに違和感を感じないなんて。



みんなが来るまで寝てればいいんだ、その結論にたどり着き上履きを脱いで本格的に寝る態勢に入る。

ゆっくり目を閉じると、明るい瞼の裏に影が落ちた。


部屋が暗くなったわけではなさそうだが、少し不自然だ。


不思議に思いうっすら目を開くと、重力に従って伸びる漆黒の髪が見えた。



「構ってもらえないから拗ねてんだろ」



背もたれに両手をついて、のぞきこむように私を見る目が楽しそうに細められた。