「妙な真似、というのは?」



惚けたように久遠寺くんが首を傾げてみると、要冬真は苦虫を噛み潰したように綺麗な顔を崩した後重々しく口を開いた。



「気安く触んなって事だ」




「いやいや、なんであんたの権限で色々決まるわけ、信じられん」


「うるせーいいんだよ」




「はぁ?ジャイアニズム振りかざして偉そうに!私のモノは私のモノ!アナタのモノはアナタのモノ!そうして世界は回ってるの!」


「お前は俺のもんだろ」



ダメだわ!埒があかない!
この俺様気質は何なの前より酷くなってるじゃん!



「二人とも、ここは図書室ですよ」



久遠寺くんが冷静に発した言葉に私と要冬真は睨み合いながらも口を結んだ。
洋書ブースで喧嘩する私達って…、せめて英語で喧嘩すりゃマシだったかもしらん。



「まぁ、鈴夏さんが気に病むことは何一つないということですよ」



漸く見つけたと、呟いて奥の棚から一冊の本を引き出した久遠寺くんは私を慰めるような優しい声で静かに笑う。


その表情は、誰でもがみとれるような柔らかい笑みだった。



「ありがとう」



目を合わせられなくて俯くと、久遠寺くんはすれ違いざまに羽の重さで私の頭を撫でて、そのブースから出て行った。


鼻を掠めるバニラの香り。
その優しさに、少しだけ泣きそうになった。




「帰るぞ」




相変わらず不機嫌な要冬真の声で図書室を出る。

私は、ホントに幸せ者だ。


こんなに、素敵な人達に出会うことが出来て。









「仁東!俺がクラスを代表して言葉を贈る!」


その足で教室へ帰ると、クラス全員からの視線が集まりそれを代表するように委員長が私の前に立ちはだかった。


「久遠寺の事は残念だった、でも考えてみろ、クリオネとゴリラは結ばれない。お前にとっては辛い事かもしれないが元々種族が違うんだ。安心しろ!男はクリオネだけじゃないぞ!」





朝から感じていたクラスの視線は、哀れみのそれだったらしい。




fin