モヤモヤと、それでも進む自分の足を眺めながら歩いた。
隣の要冬真の歩幅は私とは大違いで、少し悔しくなる。
二人で3年C組の教室に向かった私達は、久遠寺くんが図書室に居ると聞いて渡り廊下を通りすぐ見えた扉の前に立った。
「行ってこい」
「…、え!?」
付いて来てくれないの!?
私一人なの心細い!
しかし素直にそうも言えず、渋々図書室の扉に手をかけた。
本とか、全く興味が無かったので入るのは初めてだがこの独特のインク臭さには少しだけ覚えがある。
昔読書感想文を書かなければいけなくて無理に入ったそこは、今足を踏み入れている世界中の本が集まっているのではないかと思うほどの大きさではない。
近所の公民館にある、教室一つ分ほどの小さな場所だ。
チラホラ見える生徒達の物珍しげな視線を感じながら私は360度に広がる本を眺めた。
こんなの、一生かかっても読めないだろうな。
ズラリと並ぶ本棚と平行して用意された座席に、見覚えのある人物を発見した。
「吉川さん」
名前を呼ぶと、切りそろえられた前髪が小さく揺れる。
読んでいる本は、細かすぎて字が滲んで見えた。
「仁東さん、どうしたんですか?」
流石脚本家の娘。
傍らには他にも数冊難しいタイトルが積み上がっている。
「えっと、久遠寺くん知らない?」
慌て彼女に視線を戻しそう言うと、一瞬考えるような素振りを見せてから静かな声で呟いた。
「先程、洋書のブースにいましたよ」
周囲に気を使ったようなかすれ声に、そういえば静かにしなければいけない場所だった事に気付いて口を結んだ。
忘れてた。
ここは図書室だった。
「ありがとう」
なるべく小さな声でお礼を言って天井からぶら下がる小さな看板を見回す。
なんせ初めて来たので場所なんか解らない。
経済、医療…なんでもあるな。
図書室の扉から一番遠いブースに“洋書”と書かれた活字が見え一直線にそこへ向かい、本棚を覗くように顔を出すと、真剣にページを捲る彼の姿が見えた。


