「...面白かったね!」
会場から出ると、携帯の電源を入れながら茉莉花は興奮気味に加藤に話しかけた。
加藤は欠伸を飲み込みながら、
「え、あ、そう?そう!良かった。」
と言った。
「加藤くん、眠いの?」
「いや、実はちょっと寝ちゃった。
まさかベートーベンで寝るとは俺も思わなかったけどね…。」
今日の演目は全てベートーベンで、有名どころばかりの上、歌まであったのだ。
「わたしも寝ちゃうかと思ったんだけど、すっごく面白かった。
迫力あったー!」
「篠原さんが喜んでくれて良かった。
てゆうか最後の喜びの歌歌ってたオヤジ、見た目と声のギャップすごくなかった?バリトンてゆうの?細くて地味そうな感じなのにあの堂々たる歌声…。」
「加藤くん、そんなこと思ってたんだ。」
茉莉花と加藤は顔を見合わせて笑った。
「だって俺も別にクラシック詳しくないもん。
先輩にこないだたまたま会ってチケットもらったけど、行く気なかったし。
昨日篠原さんに会えたから、ちょうどいいと思っただけで。
…なんか外冷えてきたね。ちょっとどっか入らない?」
2人は通りがかりのカフェに入った。


