7年目の浮気



「...面白かったね!」

会場から出ると、携帯の電源を入れながら茉莉花は興奮気味に加藤に話しかけた。


加藤は欠伸を飲み込みながら、

「え、あ、そう?そう!良かった。」

と言った。


「加藤くん、眠いの?」

「いや、実はちょっと寝ちゃった。
まさかベートーベンで寝るとは俺も思わなかったけどね…。」


今日の演目は全てベートーベンで、有名どころばかりの上、歌まであったのだ。


「わたしも寝ちゃうかと思ったんだけど、すっごく面白かった。
迫力あったー!」


「篠原さんが喜んでくれて良かった。
てゆうか最後の喜びの歌歌ってたオヤジ、見た目と声のギャップすごくなかった?バリトンてゆうの?細くて地味そうな感じなのにあの堂々たる歌声…。」

「加藤くん、そんなこと思ってたんだ。」

茉莉花と加藤は顔を見合わせて笑った。


「だって俺も別にクラシック詳しくないもん。
先輩にこないだたまたま会ってチケットもらったけど、行く気なかったし。
昨日篠原さんに会えたから、ちょうどいいと思っただけで。

…なんか外冷えてきたね。ちょっとどっか入らない?」


2人は通りがかりのカフェに入った。