「風羽っ!何やってんのっ?」





私の部屋を開けた母の叫び声





私はトランクに当分の荷物を詰めてた




「しょ、傷心旅行?」



部屋の入り口でお母さんが呟く



婚約者と別れて、職を失い


出戻り娘……いや、まだ結婚してないから出戻りではないか


そんな私が傷心旅行って




センチメンタルジャーニーかっ
てツッコミ入れるところかな




っていうか、私が彼をふったから


傷心旅行に行く資格は私にはない




トランクを閉めて



ゆっくりお母さんを振り返る




「ごめんなさい。お母さん

私、どうしても好きな人がいる

何年も前から」




お母さんは スッと真顔になって




私の前に正座した




私も ちゃんと正座して
お母さんと向き合う




「……その人って、お母さんも会ったこと、ある人かしら?」



私はうなずいた



「だったら、あの人ね
空羽の一周忌にも来てくれた

本屋さんの息子さんだっけ?」




お母さんが ビシィッと伊織くんを言い当てたから




私は驚いて




「何でわかるのっ?」



お母さんは少し呆れたように




「風羽が家に連れて来た男の子なんて片手の指でも余るでしょ?」



た、確かに……………