「……あの、さっきの話…わたしが子どもを産んだこととか、陣野先生とイヴとわたしの間に何があったのかとか、詳しく教えてくれませんか?」

ふとんの上でぎゅっと拳を握り締めながらシオに言う。

でも、シオはゆっくりと視線を下へ向けると、淡々とした口調で言った。

「…申し訳ありません。これ以上のことは私も存じていないのです。…ただ、イヴである神音様なら、そのご記憶をいつかたどることができるだろうと、私は思います」

「……そう」

一千年前に何があったのか、どうして陣野先生がイヴを甦らせようとしているのか、知りたかったけど、これ以上聞けないことが残念だった。

でも、今は穂高を救出することだけ考えなくちゃ。

わたしは雪音の顔を一目見て、シオを仰ぎ見た。

「シオ。雪音を少しの間、預かって欲しいの。竜華雅たちの勢力から護って欲しい。穂高を救出したら、必ず戻るから…!」

シオは口角を少し上げるだけの微笑みで応えた。

「もちろんです。我々が護るべきは、火月様が作り上げたこの神社と、イヴ様、それにイヴ様が護られている全てです」

「…ありがとう」

雪音の顔を見て微笑んだその時だった。

「…悲鳴が、聴こえます」

「…え?」

シオが瞳を閉じ、音に耳を澄ませるように顔を傾けた。

「上です。綺羅という少女の悲鳴が聴こえます。それに知らない男の声…彼女を殺す、と言っています」

「…どういうこと!?わたしには、そんな声は聴こえないわ!!」

いくら吸血鬼だからって、地下にいるのに地上の声が聴こえるなんてそんなわけは……。

シオは深紅の両の瞳を開いて、微かな微笑みをたたえた。

「虫の呼吸音すら拾ってしまう。それが私の特殊能力です」