その後、レイは追手に気を配りながら山奥の道をひた走った。

途中、レイが言うには吸血鬼の一族らしい黒塗りの車が様子をうかがうように後ろを走っていたということだったけど、レイの機転とスピードで彼らをなんとか撒くことができたようだった。

走りながらだいぶ暗くなってきた道をうかがいつつ、レイに問いかけた。

「レイ、“ガイア”と“吸血鬼の一族”がイヴを殺すために、手を組んだってこと?」

レイはスピードを緩めることもなく、暗がりでもよく見えるヴァンパイアの瞳で前を見据え言った。

「ガイアではもともと、純血のヴァンパイアの力が絶大だった。彼らがイギリスから来たのは知っているよね?日本にいるヴァンパイアは日本にいてもイギリスにいる彼らの影響を強く受けていた。だけど、今、イギリス郊外のヴァンパイアの巣窟である“ガイアは100年の封印状態にある。今現在、実質的なヴァンパイアの王であるウルフガングももちろん封印されたガイアの中にいて、その力は外には及ばない。しかも、象徴的絶対的に支持されている次代のヴァンパイアの王デュオも100年の眠りについている状態だ」

ママの小説の中にあったこれから起こる“本当”の話だ。

ガイアもデュオも今から100年後じゃないと、その眠りを覚まさない。

「つまり、今、日本の“ガイア”は、無法地帯に等しい」

「……無法地帯」

「その中でも、純血のヴァンパイアではなく、ヴァンパイアと吸血鬼の混血がかなりの力を持ち始めたんだ。その代表が“竜華雅”だ。彼女の先祖はイヴに近い。イヴは陣野との子供の他に、純血のヴァンパイアとの間にも子供がいた。そのヴァンパイア側の子孫が吸血鬼と交わった結果誕生したのが雅なんだ。彼女はヴァンパイアの中でも血が濃く、とても強い“力”を持っている。その雅が動き出した、というわけだ」

竜華雅……あの怜悧なまでの鋭いバイオレットの瞳を思い出すだけで、背筋が粟立った。

眉をしかめて俯くと、レイがわたしの肩をポンと叩いて微笑んだ。

「雅のことはあとだ。今は、雪音ちゃんを助けることだけ考えよう。ね、神音ちゃん」