嗚呼そうだ、死んでしまおう。



そう思ったことは何度もあった。
理由は毎回違うのだけれど、大きな倦怠感の後に襲う、のし掛かるような気怠い気持ちは正にそれ。


ビルの屋上は地上よりも数段風が強く、これに負けじと空を飛ぶ鳥を羨ましいと思った。

無い物を欲しがったところで手に入るはずはないのに、鳥になったら太い五叉路を挟んで向かいにあるこちらよりも高いビルに飛べるんだろうな、なんて思い描いたりもする。



ホントに、私ときたらどうしようもない。




この、何十階にも及ぶ高層ビルの屋上は、誰も立ち入れぬよう頑丈に南京錠で重たく鍵が掛けられていた。

しかし何年も汚い空気の中にいたせいか、それとも誰にも触れてもらえなかったからなのか、少し乱暴に振ってみれば見事に役目を果たし脆く崩れた。


もしかしたら、あの南京錠は誰かに触ってほしくて仕方なかったのかもしれない。


それほど、脆かったから。





ギシギシと扉の錆びたネジの音に合わせて、私はそこに足を踏み入れた。



人が来るとは予想していなかったのか、フェンスも張られていない広々とした空間。


遠くから車のクラクションや選挙カーの宣伝が聞こえるが、それは遥か下界での話だ。


面白いほど何もないその空間を、ゆっくり噛みしめるように歩いてみる。


真っ直ぐに。


ここには終わりがないのだと、歩くには不自由ないコンクリートで舗装された踏み外すことのない、道があると信じて。


やがてつま先は道の終点を見つける。






これだ。






しっかりと地を見据えていればなんてこともない、小さな段差。


ここから先は道がないよと、教えてくれていたのに。



私はそれに気付かず、段差に両足を綺麗に揃えて。



強く背中を押されて、体が宙に放り出された。