矢澤君の目線で私に気付いたらしい。
たいした距離もないのに、仲野君は廊下に立ち尽くしていた私の元まで走ってきた。
「聞いてた!?」
「う、うん」
聞いてた。
聞いてたけど……
「頼む堀川!!」
急に言われても困る。
急じゃなくても困るけれど。
「一人が心配なら橋田も誘ってさ!
ちょうどマネージャー探してたんだよ!」
たとえ真陽が一緒でも、サッカー部なんて男だらけの部、少なくとも今はまだ無理だ。
「あたしが何?」
聞き付けた真陽が近寄ってきた。
「堀川と橋田でうちの部のマネやってくれよ!」
「いいよ」
「ちょっと!真陽!?」
真陽はニヤニヤしながら私を見た。
「いいじゃん。
水雫部活やってないし」
……ダメだ。
真陽からのフォローは期待できない。
むしろ追い込まれている。
「受験あるしさ……」
「水雫頭いいから平気でしょ」
エネミー真陽。
真陽は協力してくれているつもりなのだろう。
私はもう少し時間が欲しいのに。
「親に聞いてみないと……」
「じゃ、電話してみよ」
思わず真陽を睨んでしまったけれど、真陽は全く怯まなかった。



