√番外編作品集

「そう言われたらグゥの音もでないけどさー」

「まぁ、一々それを教科にして試験する意味はないと俺も思うけどな」

「だろー なにが上一段活用だよ。そんなの意識して昔の人喋ってたと思うか? 無理に理屈つけんなよって、そういうのは大学でやって下さいよって話で」

康平の言葉に千恵は楽しそうに笑った。

「そうだ、古文なんかよりちょっと話があるんだけど」

康平は千恵の笑顔に現実に戻ると、次の小テストとそれに纏わる賭の話を持ち出した。

一方クラスに戻り席についた敦子は、額を抑えたまま考え事を続けていた。

正直、期末試験のことなど俊彦の告白で吹っ飛んでしまった。

俊彦のことばかり考えていたが

『潤のことがやっぱり好きだよ。潤があんな風に気にしてくれるのが死ぬほど嬉しい』

一度、ぎゅっと目を閉じる。

俊彦は、誰かの代わりに敦子に好きだと言った訳ではない。

しかも潤が好きなままの敦子でもいいとまで言ってくれた。

『いくら私が潤のこと好きだって知ってるからって、甘えていいのとは違うよね』


「飯島ぁ!」


大声で名前を呼ばれて驚いて顔を上げると、クラス中の視線が敦子に注がれていた。

一番上の教壇から注ぐのは、古文の鬼教師江古田の視線だった。

「聞いてるのかお前。ハ行上二段活用、活用形を上から!」

「え、えっと」

おぼつかない態度で立ち上がると、後ろから笑い声が聞こえた。

「こ、恋ふ…こひ…ふ…ふる、ふれ……ふよ?」

黒板に書かれた古文の活用を、懸命に思い出しながら続ける。

「お前何聞いてるんだよ。命令形が恋ふよ、って何だ、気合いがないなァ!」

古文に気合いなんて関係ないじゃん! 昔の人はマッタリ包むような恋愛観じゃないわけ!?

敦子が心の中で教師に抵抗しながら、急いでノートにメモしたハ行上二段活用を探す。