√番外編作品集

「どうした?」

二条西高校学生棟2階の一番端

2年特進Bクラス

壁際の前から3つめの席に座っている潤が、HR前の敦子の来襲に開口一番に放った言葉はそれだった。

「え?」

敦子と山岡千恵の両方が、彼に疑問符を送り返した。

「敦子、具合でも悪いのか?」

手にしていた鞄を机の横にかけて、参考書をめくっていた手を敦子へ向ける。

「べ、別に悪くないよ。どうして?」

具合が悪いのはむしろ潤なのではないかというくらい、彼は眠たそうな目をしていた。

伸ばした手が敦子の額に触れた。

軽く指で前髪をどけてから触れるその仕草は、千恵の目からみると酷く手慣れて見えた。

「熱はないのか。お前って調子悪いと片目だけ奥二重になるだろ」

額に触れていた手が瞼まで降りて、右目の瞼に触れた。

「あ、敦子! 今日は朝から、江古田先生の古文じゃなかった?」

千恵の言葉に、敦子は飛び上がるようにして何度も頷くと、じゃ!と手を上げて教室から走って出て行った。

「……なんだ、あいつ」

「古文は次の試験範囲、どのクラスも大変みたいだから…」

「大変だよなー普通科は。俺理数クラスでよかった。昔の日本語覚えて何がいいわけ?」

康平が肩をすくめると潤は可哀想なヤツ、と短く叱咤した。

「なんだよそうだろ? 現文だけで十分だっつの、国語なんて」

「故人あってこその俺たちなんだぞ? 日本人としての感覚ちゃんと養えよ」