√番外編作品集

「お前はさ、まだ──飯島と付き合う気はないのか?」

千恵が挨拶を終えて裏方に戻ると、俊彦はオブラートに包まず潤に問いかけた。

潤は眠そうな目のまま、オレンジジュースを飲む手を止めた。

「突然、途中式を投げつけられても答えが出せないですね」

「悪い。──ほら、夏に飯島に呼び出されて買い物引き回しの刑──じゃなくて買い物回ったことがあっただろ。あのときにも聞いたけど」

「その話であれば、俺はもう堀口さんに話してるじゃないですか」

オレンジジュースをじっと見つめいた視線を上げて、潤は続ける。

「俺に気兼ねしなくていいですよ」

「──気兼ねっていうか、な……」

「俺は今のままで敦子を守れますから」

沈黙のまま、うーん、と難しい嗚咽を漏らしたのは俊彦だった。

潤は黒板の方を見ながら、その黒板にチョークでも走らせるかのように視線を左右に動かした。

「敦子が望む曲線に、堀口さんの描く曲線は重なると思いますよ」

「なんだそれ、どういう比喩だよ」

俊彦が苦笑すると、潤は一度目を閉じて机に爪を立ててトントン、と指を鳴らした。

「堀口さんは器用で、優しいということ──かな…」

どう表現するべきか考えた挙句の彼の言葉も俊彦は前後関係が把握できず

曖昧に感謝の言葉を返すことしかできなかった。

「たとえば、その中でお前ってどういう線なの?」

理解できないだろうが一応聞いてみようと俊彦が尋ねると

潤はオレンジジュースを口につけてそれから黒板を見たまま続けた。

「双曲線だと思いますよ。離心率はどこまで大なりになるか分からないけど」

俊彦は考えた。

つまり、水面に映る自分のようなものなのだろうか。

付かず離れずで、でも手をとる事はない。

それは、敦子が望んだ形ではないということだ。

暫くお互い沈黙していたが、時計の長針が一周する前に俊彦は2年B組を後にした。