「君」が嫌いだ。


いや、君が嫌いなわけじゃない。むしろ話を聞いてくれている君には感謝したいくらいだ。

私が嫌いなのは、歌詞なんかによくある「君」という表現。


誰なんだ、「君」は。

たいていは、好きな人を指すのだろうけど、気に食わない。腑に落ちない。


だって大好きな「君」がいない人は、その歌は歌ってはいけないような気にはならないだろうか。

好きな人がいないときは、「君」に心をこめて歌えない。歌っても、どこかうさんくさい。

「君」とは誰なのだろう、と思いながら聴いて、歌う。

私は歌うのが好きだ。もっと言うと大好きだ。だからもっと歌に集中したいのだ。

余計なことなど考えず、ただひたすら歌っていたい、のに、「君」が私をたのしいたのしい歌の世界にいる私に疑問を投げかける。


私には大好きな「君」がいるのだけれど。

今は大好きな「君」がいるから、好きな人がいなかった過去の自分を恥じながら、胸をはって「君」を歌う。そんな風にはなれない。