また昨日のように逃げられるのではないかという恐怖が俺を襲っていた。

『あたしは…信じたくないの』


また謎めいた言葉を言う美羽。
もう俺はそれに慣れていた。
知りたい気持ちは膨らんでいくばかり。
もう抑えられることは出来ないだろう。


すると美羽がいきなり俺の前から姿を消して、出口へと走り出して行った。

やっぱりか、と思い俺は美羽を追って、美羽の腕を掴む。
強く握って、もう逃げないようにする。


『美羽!何で逃げるんだよ!俺がなんかしたなら俺…謝るから…』


太陽が雲に隠れる。
たちまち街全体が、光を失い、暗くなり始める。美羽を照らしていた光も、今はない…


『じゃああんたにあたしの傷…癒せる?』


美羽が涙でぐしゃぐしゃになった顔を俺に向かって投げかけた。


『傷を癒せるかって…?』


『…あたしの傷は一生癒えないの。あんたの優しさは意味のないことよ』

こう言って、美羽は俺の手を離し、屋上から消えて行った。


俺は、美羽の傷を癒せることは…出来ないのかな?


中途半端な優しさが、
美羽を苦しめていたんだ。