忘れなることなんか、
出来ないよ─…
まだ耳の中に残っている。
陸の最後の言葉が…。
『美羽、甘えていいんだよ?もっと。俺、去年も一昨年も祝えなかったから今年は祝いたいんだよ』
陸の優しい瞳に、あたしは吸い込まれていく。
すっかり静かになった街。
空に浮かぶ黄色い円形。今日も星が輝いている。
あたしは視線を下にずらし、小さく笑みを零した。
『大丈夫!陸がいてくれるだけで幸せだから!』
それに気づいてしまったから。
あたしも陸の誕生日になにも祝えていない。
お互い様だ。
だから今年こそ陸の誕生日を祝ってあげたい。
陸の誕生日は8月。
あたしよりあとだった。
『…ねぇ、キスして…いい?したいんだけど…』
照れた口調で陸はあたしにこう聞く。
突然のことで、言葉を失ってしまう。
真剣な眼差しの陸。
あたしの体は硬直する。


