「大体、恭兄には遊姉がおるやろ。そのくせに、静香に手ェ出すんか?ジブン、ちっとだらしないんとちゃうん?」


……何を言い出すかと思えば。


「そうじゃねぇ。てーか、遊里も関係ねぇよ」


遊里と俺は、そんなんじゃない。

あいつは、幼なじみだ。


普通より関係が近すぎるのは認めるしかないが、俺達はそんな関係じゃない。


「ふんっ、遊姉もカワイソウやわ…。ほな、何で?」


タバコを吸い殻の山に押し付け、千鶴は俺の目を見据えてくる。


「何でも……いいだろ」


言いたくない。

このクソ生意気な餓鬼に言うのは癪に触る。


「よぉないわ。大事な大事な静香の事やもん。いくら恭兄でも、下心持って静香に近付くんやったら許さへん」

「お前」


千鶴の目は、遊びがない。

一部の揺るぎもない。


……はぁ。


こいつの腹の底に、何があるのか知らないが、静香がよっぽど大事らしいな。


「分かったよ。言えばいいんだろ」


僅かな逡巡のあと、覚悟を決める。

ていうか、ただ単に恥ずかしいだけなんだけどな。


「あいつは、静香は……俺の、好きだった人の娘だ」


瞬間、ポカンと呆ける千鶴。

新しくくわえたタバコが、ポロリと口から落ちる。


「へ?……それ、水澄おばちゃんの事?」