ゴン!

鈍い音がした。


「いだっ!?」


私を捕まえたまま、後ろに下がっていた千鶴が悲鳴を上げた。


「何をしている?」

「あ……」


振り向いたそこには、本を片手に携えた、無表情な桂くんがいた。


何で、ここに?


「うぐぅ……桂、テメコラ、いきなり何すん……あだっ」


ゴツン、とまた同じ鈍い音が響いた。

鼻頭を押さえ、千鶴がうずくまる。


「おはよう、静香」

「え……あ、うん、おはよう桂くん」


何でもなかったように、桂くんは晴れ晴れとした顔で笑う。

えと、千鶴が少し可哀相な……。


「しかし、何故静香がここにいるんだ?」

「桂くんこそ…」

「俺は、……コレだ」


と桂くんは、複雑そうな顔で足元の千鶴を親指で指す。


「こいつが来ないから、迎えに来た。そうしたら、お前達と渡会さんが言い争っていたんだ」


そう言って、桂くんは恭輔さんの方に軽く会釈をした。


「私の方は…色々あって」


千鶴に聞こえると、また騒ぎ出しそうだから、言葉を濁す。

桂くんは、さほど興味がないのか、特に表情に変化は無い。