そこまで思ってくれるのは、幸せな事なんだけどさ…。

あー、もう!

ザーザー、ザーザーと雨の音が欝陶しいな。


本当、こんな事思いたくないけど、少し……面倒になって来た。

私は千鶴と違って夕飯の支度、洗濯等々、やらなきゃいけない事がたくさんある。

これ以上、こんな事でグズグズしてはいられないのだ。


「なぁ、静香!聞いてんのっ!?」


しょうがない。

撤去してもらおう。


チラっと、千鶴の後ろに視線を送る。

桂くんが我関せずと、恋愛小説をつまらなそうに読んでいた。

その彼は、私の視線に気付いたのか、本から僅かに顔を上げ、小さく頷く。


「……ふぅ」


桂くんは溜息一つを挟んで、パタンと本を閉じた。

そうして、無造作に千鶴の制服の襟首を掴んだかと思うと、ぐいっと力強く引き寄せた。


「ぐぇ!な、何すんねんコラ!」

「帰るぞ」

「あァ?知るか、一人で帰りゃええやろ!この手ェ離さんかい!」


千鶴は首根っこを掴まれたままの情けない恰好で、桂くんに食ってかかる。

逃れようと、傘を振り回して暴れるけど、桂くんはそれを無視しして、歩き出した。


「いいから、来い」

「あ、おい!引っ張んなアホ!!ウチはまだ静香に話が…」


ギャーギャーと喚く彼女を、桂くんは平然と引きずっていく。

華奢な体付きの桂くんだけど、意外に力は強いから、女の子の千鶴じゃどうしたって勝てない。

結果、千鶴は見えなくなるまで、何やら喚きながら、ズルズルと引き擦られていくのだった。