-Kyousuke-



電気も付けていない、薄暗い室内。

明かりはユラユラと机の上で揺れるオイルライターの火と、窓から入ってくる表の電灯だけ。


俺は、ベッドに弁当を投げ出したまま、茫然と座り込んでいた。


「久我……静香か」


ざわつく心に、水澄先生によく似た、先生の娘の顔が浮かんで来る。

まぁ、似てるのはあくまで見た目の話だ。

中身は少しも似てない。

先生はおっとりして朗らかな人だったが、あいつはどこか暗く、儚げな印象だった。


ぐしゃりと、前髪を掴んで掻きむしる。


「あー、くそっ……」


ち、俺はまだ…。

先生が亡くなって、二年だぞ。

高校を出てからは、もう三年以上も経つってのに…。



俺は何だって、まだこんなに燻ってるんだ。


「家族の静香ですら、引きずってないってのに」


静香は、もう悲しくないっつ言ってた。

本当かどうかは、あの無表情からは読み取れなかったが。


それでも、だ。

家族である静香は、先生の死に囚われているようには見えなかった。


だってなのに、何でだ?

家族でも何でもない。

ただの一生徒に過ぎなかった俺が、何でこんなに先生の死から立ち直れない。


もやもやをどうにかしたくて、力強く煙草の箱を握ったら、無様にひしゃげてしまった。


「……糞っ」


何で、俺はまだ……こんなにまで先生に惹かれてるんだ。


†††††