頬の事は適当に誤魔化し、私はさっさとお弁当を買って外に出た。

恭輔さんも、そんな私に合わせるように会計を済ませて店を出る。

ちなみにさっきのお弁当は、私が譲ってもらう形になった。


「先生が亡くなって、もう二年になるんだなぁ」

「えぇ」


恭輔さんは胸のポケットから煙草を取り出し、オイルライターで火を点けた。

銘柄は千鶴と同じ、ラッキーストライク。

だらし無い半開きの口から吐き出された煙が雨空へと昇っていく。


恭輔さんは、何を考えているのだろうか。

目を細め、何かを悔いる様に雨空を見上げていた。


「この二年、どうだった?やっぱり悲しかったか?」

「………いえ」


はっきりと、左右に首を振る。

私には、この二年…晶人さんと暮らした二年は満ち足りていた。

時間の流れも、お母さんを失った悲しみや苦しみも忘れて、生きてきた二年。

この時間は、私にとって幸福だったから。


「そうか。羨ましいよ」

「え?」

「何でもねぇ」


恭輔さんは薄く笑って、煙草を投げ捨てた。

ジュッと煙草の火は音を立てて消え、ゆっくりと雨水が残った部分に染み込んで行く。


「じゃあな」


恭輔さんは私の肩を軽く叩いて、手にした傘を開いた。


「会えて良かった、静香。またどこかでな」

「あ……は、はい」


傘を片手に、ブラブラと歩いて雨の中へと消えていく恭輔さん。

その背が見えなくなってから、ようやく私も帰路についたのだった。





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