Rainy-Rainy

今まで隣で読書に勤しんでいた少年が、千鶴の頭を固い本の角で殴打したのだ。


「犬、煩い」


分厚い辞書みたいな本で一撃見舞ったのは、鍵谷桂くん。

彼も小学校の時からの親友で、学内でも指折りの優等生の男の子だ。

日頃から、暇さえあれば本ばかり読んでいる、本の虫でもある。


「何すねんコラ」


殴られた千鶴は額に青筋を浮かべ、すまし顔桂くんを睨み付ける。

というか、既に足が出ている。


「煩い。黙れ。喚くな。いや、もういっそ死ね」


千鶴のローキックを避けて、抑揚のない声で告げる。

ちょっと口が悪いのが桂くんらしさ、なのかな。


「おはよ、桂くん」

「ああ……おはよう、静香。元気で何よりだ」

「どこがやハゲ!!よぉ見てみ。ボロボロやろ!!なぁ、静香ぁ〜病院いこぉ?な?」


千鶴は猫撫で声で、私の事を下から見つめてくる。

うっ、ちょっと……これは、ヤバイかなぁ。


「ち、千鶴…わっ」


桂くんが私を押しのける。

彼の冷ややかな目に、千鶴の頬の肉が引き攣った。


「猫撫で声、キモい。いや、ウザい……もう死ねよ」

「……ぐぐぐっっっ!お前が死なんかい!!」