ほどなくしてわたしたちが注文したドリンクが来て、そっから女の子交代の時間が来るまで何話してたかは忘れた。
彼もわりと酒が入りはじめてたから、わたしはあとは適当に場を盛り上げるようないつもの会話をしていたと思う。
ただ交代の時間になって、「瑞穂さんお願いしまーす」とボーイに声をかけられ、「おじゃましました」と立ち上がったわたしの手首を、最後に彼につかまれ、一瞬引き止められたのは覚えてる。
そのとき、彼はこういった。
「名前、なんでしたっけ?」
「瑞穂です」
「瑞穂さん、ありがとうございました」
名詞をわたそうか迷ったけど、結局わたさなかった。
なんか面倒くさそうな客だなってかんじだったし、いかにも金もってなさそうだし、それになんとなく、もうここには来ないだろうって思ったから。