「わたしは、姉さんを探したい。だから、波照間島に行きたいの」
すべてを話し終えたのは2時間後。
わたしがそこまでを話すと、部屋の中には沈黙がおとずれた。
本当にあきれかえって、言葉も出ないのか。わたしがそう思った瞬間、静かに父は立ち上がった。そのままこちら側にやってくる。
「っ!」
何をするのかと思う間もなく、父は先生を殴った。
「なにすんのよっ!」
叫んだのはわたしだった。
先生、やっぱりこんな人達に話しても無駄だったんだよ、続けてそう言おうと思った。
しかしその言葉は、その直後に目にうつった光景ですっとんだ。
父が、あの父が、今度は先生に向かって土下座をしていた。
「…夏実を、夏実をよろしくお願いします…」
すこし枯れた、低い声。そういえば久しぶりに父の声を聞くな、なんて思った。
続いて先生も、父に向かって土下座をした。
「はい。本当に、こんなかたちになってしまって申し訳ありませんでした。彼女は、責任を持って僕が守ります」
しっかりとした口調。いつかキャバクラでわたしに弱音を吐いていた先生は、もう思い出せないくらい。
今度は母がせきをきったように泣きだして、そして、ふたりのやりとりを見ていたわたしを抱きしめた。
「お母さん、夏実がそんなに大変だったなんて思わなくて…!ごめんね、ごめんねっ」
わたしの涙腺は、やっぱりここ最近ですっかりおかしくなってしまったらしい。今だって、こんな、こんなに簡単に…。
「っ、ごめんなさい、ごめんなさい」
わたしの口からも自然と謝罪の言葉がこぼれ落ちると、母はわたしを抱き締める力をいっそう強くした。
