世界の灰色の部分

そこまで言って先生は、わたしを見た。話には、まだ続きがあるのだ。
「それから瑞穂ちゃんと柴田がいなくなり、数年が経過した。俺は心にぽっかり穴が開いたまま、高校教師になった。そんなとき、キャバクラで君に出会った」
「あのときね…」
「そう。驚いたよ。一目見た瞬間、化粧こそ濃くしているものの、高校のころの瑞穂ちゃんになんとなく似ていたから。さらに名前を聞いたら、瑞穂っていうんだから」
「じゃあ、あのときもう気付いてたってこと?」 
「いや。そのときはただ、そら似と偶然だと思った。でも、それから新しい学校に赴任して、そこに君がいた。雰囲気こそ違うものの、キャバクラで会った子とどことなく似ていて、姉である瑞穂ちゃんにも似ている。さらに名字が南野だったから、家族構成や住所なんかを調べて、やはり妹なんだなってわかった。すごい偶然、いや、奇跡だと思ったよ。キャバクラの子と同一人物だと確信したのは次に店に行ったとき。教師だっていってないのに、アドバイスを求めたら、君は学校で好かれる方法を話してくれたよね」
そこまで話すと先生は、満足そうに笑った。
「でもよかったよ、話すことができて。君が誰かとかけおちするっていったときはどうしようと思ったけど、それもう大丈夫みたいだ。結果的に、水商売だってもう…」
バシンッ。
鈍い音がして、わたしの平手が、先生の右頬を叩いた。