「そんなにつまらなそうでした?」
「少しね」
彼は「まいったなぁ」と頭をかいた。
きっと飲みたいだけの上司に恩きせがましく送別会とか言われて、そのまま断れずについてきたんだろうなぁ。
わたしがそんなことを考えたのに気付いてか、彼はつけ加えるように言った。
「別につまらないってわけじゃないんです。ただ、明日からの仕事のことを考えると不安で」
「嫌な仕事なの?」
「いえ、嫌というわけではないです。自分で望んで就いたわけですし。ただ、うまくやれるか不安で仕方ないんです」
彼はそこまで言うと、だいぶ氷のせいで薄まった焼酎の水割りをぐいっと飲んだ。
…おとなしそうだもんなぁ、この人。
こういう店では客と会話をしてとにかくその場を盛り上げることが第一だから、たまにこういう客が来ると、どんなふうなテンションでどんなことを話せばいいのかわからなくなってしまう。
…だめだ、黙っちゃ。これでお金もらってんだから、しっかり会話しないと。
「わたしも、最初はそうだったよ」
「え?」
「この世界に入るとき。自分で決めたことだけど、最初はうまくやれるか心配だった」
「…」
「誰でもみんなそうなんじゃないかな。初めてのアルバイトも、初めての就職も。でも以外とやれるもんでさ。だから、大丈夫だよ」