「お疲れ様。はい、これあげる」
ある日わたしとあがりの時間が一緒だったケンくんは、そういってわたしにジュースをくれた。
今までのわたしの世界で男の人というのは父親や学校の幼稚な男子のイメージしかなく、嫌悪の象徴にすらなっていたため、彼のその優しさは、初めて触れるものだった。
それから彼のことを気にするようになり、わざと彼とかぶるようにシフトの希望を出すまでになった。
役者を目指していて劇団員をやっていると話した彼は、自分にないものを持っているようで、輝いて見えた。
そして、わたしたちは付き合うようになった。

やがてわたしたちは、出会ったバイトをやめ、わたしはキャバ嬢に、ケンくんは気ままな居酒屋に勤務を始めた。
わたしはケンくんに金銭的な援助ができるようになり、その代わりにわたしを愛してくれることを求めた。
お互いに依存するようになった。

不安定なバランスでなりたっていた関係は、こんなにも簡単に、終わってしまった。