「は、何言ってんだよ」
ケンくんの声は、わたしが「ごめん、冗談」とか言うのを期待していたのだと思う。
でも、わたしは必死だった。
「ホントはもっとお金貯めてからって思ってたけど、でももうだいぶあるしさ、あたしもうちょっとで18歳になるからもっと自由きくし」
わたしの表情を見て冗談じゃないんだとわかったケンくんは、すがりつくように彼の肩をつかんだわたしの手を払った。
「ごめん夏実、俺、ついていけねぇわ」
「え…」
「お前、ずっとそういうつもりでいたの?」
冷たい、今まで聞いたことのかいくらい、感情のない声だった。。
「そんなつもり…って…?」
「ずっと、俺とかけおちしたくてキャバにまで通って働いたりしてたの?」
「…うん」
そうだ。そしてわたしは今まで一度も、ケンくんにそのことを告げずにいたことを思い出す。
「ケンくんと一緒に、家からも知り合いからも離れたところに行こうと思って、ずっと…」
「…無理だよ、俺はそんなの」
「なんで!?あたしには何にもないんだよ!ケンくんだけなんだよ!ケンくんと、ケンくんと一緒にあたしは…」
目に涙が浮かんだ。でも何年間も泣くという行為をしなかったわたしは、その涙を流すことすらできなかった。
そんなわたしを見て、冷たかったケンくんの声は、今度は子供をなだめるような、説得するように叱るような、そんなかんじのものに変わった。