店内は騒然とした。
店の中にいる誰もが驚いていた。
男は無言で出ていこうとし、そんな男を必死で引き止めるように、リナさんは泣きわめいていた。
けっきょくそれは通じず男は帰っていったのだけれど、リナさんはずっと扉の前で泣き続けた。
大変なのはそれからだった。
そんな光景を見れば、おもしろくないのはリナさんを指名してずっと待っていた客達だ。
おい、ありゃどういうことだという怒鳴り声が、リナさんの泣き声以上に店内に響いた。
特にオールバックの男が凄い剣幕で声をあげ、正直言って怖かった。
店長が出てきて、お代はいりません、とかも言ったんだけど、それでも怒りは収まらないようだった。
でも、やがてずっと無言でいた一番偉そうな坊主頭が、もういい、とそれを制した。
それでようやく事態は収拾し、男達は帰ることとなった。
「おい、ただしな、こんなこと次また起こるようなら、今にこの店潰れっからな」
帰り際、その坊主頭の男は、低い声で店長にそういった。

リナさんは一連の出来事が終わっても、放心したようにバックルームにへたりこんでいた。
店はいちおうそのまま営業していたけれど、時折店長がリナさんを怒る声がきこえてきた。どういうことだ、仕事とプライベート混ぜんな、ナンバーワンの自覚くらい持て。

そんな店の事情もわからず、少し遅くなったころ、以前わたしが好きだと言ったピンク色のバラの花束を持って、脳天気な顔した先生はやってきた。