世界の白の部分に住む、学校に通う普通の生徒たちと馴染むことがない灰色のわたしは、黒の部分で生きているキャバクラで働く女の子やボーイとも、馴染むことはない。
彼女たちが普段特別な会話を話すわけでもないのに、見ているとやはり、自分には浸りきれない、水商売の中で生きることを決めた人間特有のオーラが壁をつくっている。
また彼女らもきっと、わたしのことを水商売の女になりきれていない子だと思っているはずだ。
だからって特にこれといっていじめにあうだとか無視されるとかそういうこともないのだけれど、そのぶん暇なときに日常会話をして笑いあう、なんてこともない。
ただ、二人だけ例外がいた。

「あっ、いいなー、瑞穂ちゃんのそのネイルの色。どこのやつー?」
待機中、となりに座っていたリナさんが、わたしの手を見て明るい言った。
「マジョリカマジョルカの新色です」
「へー、かわいーよー!あ、そーいえばわたし最近マニキュア買ってないなー。あ、そういえばさ、息吐きかけると反応するアルコール検知器?だっけ?あれ探してるんだけどどこに売ってるか知ってる?」
「それならドンキにあると思いますよ」
「あっ、ホントー?ありがとー」
ナンバーワンのリナさんは、誰にでもわけ隔てなく、かわいらしく、よく通る声で話しかけてにこにこと笑う。こんなわたしにも、当たり前のように話しかけてくる。
綺麗でスタイルがよくて、いい香りをまとっている。
この店に入り彼女を見たとき、ナンバーワンになる人は、実際は男だけじゃなくて、女からも好かれるような人なのかと思わされた。
「リナさーん、ご指名入りましたー」
やがてボーイが呼ぶ声。
「はーい」
リナさんは嬉しそうに笑って、紫色のドレスの裾をふわりと揺らし、立ち上がった。