「すいません、また来ちゃいました」
指名だと呼ばれて出ていったわたしに、先生は少し照れくさそうに笑った。
一瞬素にもどりそうになったけれど、あわてて瑞穂というキャラを取り繕う。
「そーんなことないよー、嬉しいし。それよりどうしたの?そのお花」
先生の隣に座り、もはやわかりきった手際でうすめの焼酎水割りを作る。
こんなちんけなキャバクラだ。客がキャバ嬢に花束をプレゼントするために持ってくるなんて、キャバ嬢の誕生日か、ホワイトデーか、そんな特別な日じゃなきゃめったにないのだ。
先生はパステルオレンジとピンクのガーベラとかすみ草で構成された花束を小脇に置いていた。
こんな店には不釣り合いな、本当にかわいらしいかんじの花束だった。
「あ、こないだ、アドバイスしてもらったお礼です。おかげでうまくいきました」
言いながら、花束を差し出す先生。
こないだ、ああ、生徒に好かれる術をわたしが教えたときか。
「わー、うそ、それでわざわざこんなにかわいいの買ってきてくれたの?うれしー、ありがとー」
わたしは花束を受け取った。
「花、好きなんですか?」
「うん、大好きだよ」
のぞきこむと花束からは、ふんわりと好い香りがした。
けれどそこでふと思い出す。
先生が中庭で、好きな女に花を贈りたいと話していたことを。