メールを打ち終わり、ケータイを開いた直後、ギィっと鈍い音がして、背後の扉が開かれた。
わたしは思わずびくっとして、振り返った。
「やっぱり南野さんだ」
「…」
扉を開けたのは、川上先生だった。
「南野さん、お昼ここで食べてたの?」
「…まぁ」
先生はそのまま中庭に入ってきて、わたしの隣に座った。
わたしは顔を下げた。
「もしかしてここきれいにしたのも南野さん?」
先生は周囲を見回した。
「え?」
「あ、用務員のおじさんがさ、言ってたんだ。この学校禁煙だからおじさん達ここにこっそり煙草吸いに来るらしいんだけど、来るたびにきれいになってくから誰だろうって。それで俺気になって来てみたら南野さんの後ろ姿だったから」
「あの」
「なに?」
わたしはうつむいたまま、思いきってたずねた。
「どうしてわたしにばかり話しかけてくるんですか?」
朝のことといい今といい。
本当は、わたしが瑞穂だと気づいて探りを入れているんじゃないかと、かなりびくびくしていた。
すると先生は、答えた。
「俺が入って間もないころ、理科室でみんなが俺の悪口言ってたとき、南野さんはそこから外れてたでしょ?それがなんか嬉しかったっていうか。あ、だめだよねー、教師がそんなこといつまでも考えてたら」
笑いながら頭をかく先生を見て、ああ、この人はやっぱり馬鹿だなって思った。
「いちいちそんなこと、覚えてません」
「あはは、そっか。あとはまぁ、ある知り合いに似てるからかな」
先生のその一言で、一気に背筋が凍った。
「…知り合い…って?どんな人ですか?」
「中学、高校と一緒だった女の子だよ。俺はその子のことが好きだった」
ホッとした。
どうやら彼の中で、南野夏実とキャバ嬢瑞穂はつながっていないようだった。