あ、ドリンクねだるの忘れた。
それに気付いたのは、先生が帰ってたいぶたってからのことだった。

先生は1時間で帰り、そのあとは週末というせいもあり、それなりに店も混んだ。
わたしがあがれたのは午前3時すぎだった。

帰り、わたしはケンくんのアパートに寄った。
戸を叩くと、ケンくんは眠そうに目を擦りながら出てきた。
「それでさ、あたしにどうすれば生徒に好かれるかを聞いてくるのね」
わたしは夜食として買ってきた春雨ヌードルを食べながら、ケンくんに川上先生の今日のことを話した。
一応自分の担任であるというありえないような部分は伏せて。
高校教師がキャバクラに相談にくるなんて、笑っちゃうでしょ、と。
ケンくんはわたしが買ってきたポカリを一口飲んで、眠そうな目のまま言った。
「なんかお前今日楽しそうだな」
「え、そう、かな?」
「うん、だっていっつも店から帰ってくると愚痴が多いじゃん」
「え、あ、ごめん」
「いや、そーゆーんじゃねぇけどさ」
わたしは楽しかったのだろうか?
そんなはずはない。むしろほかの客に比べて面倒だったはずだ。
でもまぁ、ダメ教師改造計画、とでも考えれば少しは楽しかったのかもしれない。
窓から空を見ると夜明けの明るさを帯び始めていたので、わたしはそそくさとケンくんのアパートを出た。