4つ年上のケンくんは、俳優志望だ。
今は小劇団に入って活動している。
劇団員ってのは大変で、練習のためにはバイトの時間を削らなくちゃいけないわけで、そうするとろくにご飯も食べられなくなってしまうわけで。
だからわたしは、こんなふうにちょくちょく差し入れにおとずれるのだ。

「うっわー、いいなー、超うまそう!」
お弁当を食べおわり、寝転んでいたケンくんが、ふいについていたテレビを指差し声をあげた。
テレビ画面には、本当においしそうに湯気をあげている醤油とんこつラーメンが映っていた。
「おっ、しかもそんな遠くないじゃん!夏実、こんどラーメン食べ行こう」
「あっ、いいねぇ。あとあたしがこないだ買った雑誌がケーキ食べ放題特集でさぁ」
「おー、ケーキいいな!最近食ってねぇよ」
幸せだ。
ケンくんの前でなら、わたしは唯一本当のわたしでいられる。
ケンくんのためなら、わたしはなんだってやれる。
たとえふたりの時間があわなくて、ここ2ヶ月近く外でデートなんかしてなくても、今回の約束が果たされるのがいつになるのかわからなくても。
ケンくんは、わたしを初めて抱きしめてくれた人だから。
今はお金を貯めて、高校を卒業したら、わたしはケンくんとふたり、知り合いが誰もいない遠いところへ行って、一緒に暮らすんだ。

「ケンくーん」
「んー?」
わたしはビールを飲みながら、ケンくんの頭を撫でた。
「練習は最近どう?今度は公演いつすんの?」
「ぼちぼちな。お前は?なんか変わったこととかなかったの?」
「変わったこと…」
あの教師のことを思い出す。
言おうかどうしようか一瞬考えて、やめた。
「別にないよ。学校も仕事もテキトーだしさ」
「ふーん」

それからわたしはたまっていた洗い物をしたり、部屋片づけたりして、そこを出た。
帰り際にさりげなく郵便受けを開けてみると、携帯電話の料金や、ガス代の請求書がたまっていた。
わたしはそれらを取りだし、自分の鞄に入れた。