うちは昔から、厳しい家庭だった。と、思う。
現実の一般的な家庭がどういうものかは知らないけれど、テレビなんかに映ってる家庭と比べると、おそらくうちは他人の家よりは厳しいのだろうと思う。
わたしの記憶では父が冗談を言ったところなど今まで見たことがないし、基本的にあまり笑わない。
母は優しい人間なのだとは思うけど、ものすごく真面目な性格だ。小学生のころわたしが一度だけ水泳許可カード(水泳の授業を受けるときに、健康状態に問題がないか否か、親が毎回印をつけるカードだ)に嘘の印をつけて提出したら、後にその事実を知って「なんでこんなことしたの」と泣き出してしまったほどだ。ちなみにその事実は、父にも報告され、わたしは父の拳をくらった。
それから小学校高学年になるまでテレビは時間制限つきで、しかもNHKしか見ることを許されなかったし、今現在も続いていることだが、夕食・朝食は例外がない限り家族そろって食べる。
…とか、まぁそういうかんじ。
おかげで弟は学級委員のお手本、みたいな良い子樣に育ち、なかなか程度のいい私立中学校に通い、今もしゃんとした姿勢で座って、静かに味噌汁を飲んでいる。
まぁでも、両親の目に映ってるわたしも、この弟と変わらない“まともな子”なんだろうけど。
きちんと着た、これまたわりと程度のいい私立高校の制服、ストレートの髪、化粧っ気のない顔。
両親だけじゃなく、誰が見ても、キャバ嬢やってるふうには見えないと思う。
もしもそのことを知ったら、母は泣くどころか発狂してしまうんじゃないだろうか。
父は殴るどころか、わたしを殺すかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えながら、朝食を食べ終えた。

「行ってきます」
鞄を持ち、わたしは家を出る。