未だ蝉の声が耳を打つ駅改札口は、夏休みの人たちで賑わいを見せています。
そんな中でも、太陽が中天を過ぎた昼下がりは、多少なりとも落ち着くものです。


「あっついなあ」


掃除もしてしまったし、お客様もいない。
あまり忙しい駅ではないので、ときどきこうして、暇を持て余す時間が出来てしまいます。


「お姉さん、今いいかな?」
「あ、はい。どうなさいましたか?」


ふう、と一息ついたなら、サラリーマンのお客様が来られました。
特急券売機前で、タッチパネルさえ触れずに悩んでおられる様子です。


「わたしが操作しますよ」
「いやね、お盆に鈍行で田舎まで行ってみようかと思うんだけど、そんな切符ある?」
「でしたら、こちらは如何ですか?普通列車は期限内でしたら五回ほど乗り放題なんです」


ピピッとようやく慣れてきた手つきで、タッチパネルを操作します。
出てきた切符の説明をしてさしあげたなら、お客様は、たいそう喜んでおられました。


「乗り換えとかって、難しいのかな」
「ご希望の駅まででしたら、この線でここまで行って、この時間でここ行きの鈍行に乗って……」


まだまだ難しい時刻表を駆使するわたしの額には、薄らと汗が浮かびます。
お客様も暑いのでしょう。
ハンカチでぱたぱたと扇ぎながら、ときどき、わたしにまでそうしてくださいます。

約30分後。


「ここで……これに乗って……着きました!」
「おお、着いたね!行けるね!」
「行けます!メモお渡ししますね!」


思わず張り上げた声は、蝉にも負けないものでした。


「ありがとう、助かったよ!お姉さん、親切だなあ」
「そんな!この駅は時間もあります。また、何かありましたら」


お買い上げいただいた切符とメモを渡したなら、お客様と目が合いました。

にっこりと、嬉しそうにわたしを見ています。


「お気をつけて」
「ありがとう!」


もうすぐお盆休みです。

あのお客様の鈍行に乗ったときの笑顔を思い浮かべて、わたしまで、なんだか嬉しい気持ちになりました。