右に、左に、一体何度、振り落とされそうになったことか。


 僕は風圧に首の力が負け、


 完全に顎を突き出して後ろを向いてしまっていた。


 そのためか、


 追ってくるバイクや、パトカーの動きが


 よく見えたものだ。


 パトカーによって暴走族は一網打尽にされ、


 殿は薄暗い横道で


 バイクと止めた。


 ブゥン


 僕はバイクから降りたが、まだフラフラする。


「殿、平気?」


 殿は軽く伸びをして、


 まだエンジンが熱いバイクに触れて


 こう言った。


「馬や、女より簡単だ。」


 うそぉぉぉぉ!!


 どうやら、殿は平安では


 だいぶ、ブイブイ言わせていたらしい。


 僕があたふたとしていると、


 殿はさっそく歩きだしていた。


「タケル、帰ろう。」


 その時、僕は一気に全てを思い出した。


 殿が平安時代からやってきたわけを、


 琴菊姫のことを。


「うん。帰ろう、殿。」


 僕は殿に向かって足を踏み出した。


 僕は、殿を助けてあげることができるのだろうか。


 このとき、殿も同じように琴菊姫を思い出して、


 僕より先に歩きながら


 またちょっと泣いていたのを僕は知らなかった。