「殿!!


これはコトさんじゃなくて、レイカでしょ!!」


 レイカがマキの豹変ぶりにショックを受けている内に、


 僕は、殿を無理やり引っ張って、


 地下鉄の入口へ引っ張った。


「何をするのだ!!


あれはまさしくコトだったではないか!!」


 ギャーギャー騒ぐ、殿。


 力は所詮マキだから、耐えられるけど、


 僕はこの電車内での視線に耐えられない。


 喧嘩中のカップルに見られているのだろうか。


「あれは、現代の人!!


レイカっていう僕の友達!!」


 それに、レイカにはハヤトという彼氏がいる。


「しかし、コトにそっくりなのだ。」


 殿が寂しそうに抵抗をやめて、座席にもたれかかった。


 意味がわからない。


 マキが殿、雪冬で、


 レイカが琴菊姫?


 意味が…


 アレ?


 殿、泣いてる?


 あーもう!!


 これだから平安貴族は!!


 何かあるとすぐに泣く!!


 これじゃ、僕が痴情のもつれで泣かしたみたいじゃないか!!


「殿、ほら、泣かないで。


もう、降りる駅だから。」


 殿はうつむいたまますすり泣いている。


「我が月夜…


雲居の影で


満ちたるかは…」


 なーに、和歌なんて吟じちゃってるんですか!!


 これじゃ、泣かせた彼女がいきなりポエム!


 みたいに乗客勘違いしちゃってるじゃんか!!


 しかも、う、うまい!!


 さすが、平安のプレイボーイ。


 “私の愛しい月よ


 思わぬ雲のせいで、


 見えなくなってしまいました。


 私とあなたが会える日はくるのでしょうか”


 だと!?