順ちゃんの誕生日会が開かれる。

というより、お店の開店記念日。

ジュン、駅の飲み屋街の一角にある。


お店の前には、たくさんのスタンド花が飾られていた。

私は、ラナンキュラスの花束を手に持って扉を開けた。
さっき、お花屋さんに寄った時、色とりどりのラナンキュラスが目に入った。
花が、コロンとしてて、かわいくて。花束にしてもらった。
ブーケ風の花束。


「あっ。いらっしゃい。瑛子。」

いつもの順ちゃん。

いつもの笑顔。

花束を、順ちゃんに手渡した。

『ありがとう。ラナンキュラス私にみたいに、綺麗ね。』

「順ちゃん、相変わらず元気そうだね。」

カウンター越しの順ちゃんは、グラスにビールを注いでいる。
お店の新人、啓にそのグラス渡した。

啓は、奥のテーブルのお客さんに、グラスを差し出している。
だんだん、ウェイターも様になってきたようだ。

視線を戻すと順ちゃんの心配そうな表情。

「どうしたの?なんだか元気ないんじゃない?」

『なんだか、飲みたい気分で・・・。』

「瑛子にしては、珍しいんじゃない?なににする?」

そう。なんだか。気分が沈む。

「ビールで。」

「啓。ビールお願いね。」

接客中の啓が振り返って、「はい。」と返事をした。
かなり、元気もいい。若いって羨ましい。

順ちゃんは、灰皿を手元に寄せて、タバコに火をつけた。口元から煙を吐き出す。

「っていうか、ここ3年、毎年のことよね。この時期・・・。」

『そうだね。順ちゃんには、色々聞いてもらったもんね。』

「あなたは、悪くないんじゃない?精一杯だったんじゃない?無理しすぎてたもの。」

いつも、そう言って慰めてくれる、順ちゃんの言葉に、何度も助けられてきた。


三年前、一緒に住んでいた。
 
涼。

忘れたくても。

忘れさせてくれない彼。