「その、二人きりだなーって思って」


私の言葉で、ユゼがそのことに気付いたようだ。


「あぁ、そういえば。…目障りなら眠っているが」

「ええと、そういうことが言いたいわけじゃないの」


私は慌てて取り繕う。

何と言えばいいんだろう、この微妙な気持ちを。

察して欲しかった。


「その、貴方には花嫁がいなかったのよね?」

「そうだが」

「今まで作ろうと思ったことはなかったの?」

「……」


ユゼが沈黙している。まずいことを聞いたのだろうか。

無言のまま、じっと見つめられる。

あまりじっと見つめられると、そんなことを聞いた自分が恥ずかしくなった。


「…好いた者たちはいつの間にか我が子を抱いており、僅かな時が過ぎると死んでいった」


淡々とユゼは言う。語られた内容は短くとも、言わんとすることは分かった。

同じ時が歩めないということ。


「そっか…。でも、ずっと傍にいてもらう気はなかったの?」

「同じ時にあることが必ずしも幸せとは限らないだろう。好いた者であればなおさらに。人は簡単に長く生きられない」


ユゼが何かを思い出すように目を伏せた。

ルーやハーゼオンですら、長く生きることに苦しんでいる。


「大事にしていたから、花嫁にして傍へ置かなかったのね」

「…どうだろうな」


本音をごまかすようにユゼが視線をずらした。


まるで駆け引きをしているようだ。ユゼの本心を聞き出すための。

一つずつ、ユゼを知っていく。


「その人たちがいたから、この国を守ってくれているの」

「違う」


きっぱりと即答される。


「私は他の吸血鬼に思われているほど、聖人君子ではない。…半分は、ただの意地だった」

「意地?」

「黒刺に対する」


そこで言葉を切り、ユゼはつまらぬ話はいいと首を振った。


ユゼは黒刺のことをどう思っているのだろうか。

この世で唯一の自分に似た存在のことを。

その先が気になるものの、私はこの話を終わらせようとした。

だが、それとは裏腹に問い掛けが口から零れていく。


「ねぇ、ユゼ。寂しい?」