気にするな、というようにハーゼオンはルーへ手を振った。


「この辺りの事情は、この二人も知ってるし、今更どうもこうもないんだ」


ハーゼオンは頬杖をつく。


「話が横に逸れるけど。花嫁は、古き魔って分かる?」

「古き、魔?」


初めて聞く言葉だ。


「あれ、言ってないんだ」


ハーゼオンはユゼの顔を驚きながら伺った。

対するユゼは変わらず温度が低い。


「知らぬなら、知らぬままで良い。時に埋もれ、忘れられていることだ。悪戯に思い起こせば、怯えが彼らを呼ぶ」

「…それは確かに」


ユゼの説明にハーゼオンは納得出来たようだが、私は何一つ掴めなかった。


「それで、古き魔って何なの?」

「うーん、説明しにくいんだけど…一言で言うなら、古い魔のものかなぁ」

「…そのまんまなんだけど」


私は思わず突っ込みを入れる。


「根源の闇。混沌。始まりの魔…ううん、言葉じゃ説明しにくい」


本気で眉間に皺を寄せてハーゼオンは困っていた。


「なんとなくで感じ取って欲しいんだけど、形の無い、とても巨大で恐ろしいものかな。人の恐怖そのままの姿をした…」


聞けば聞くほど話が見えなくなっていく。

きっと説明のしようがないものなのだろう。ただ、とても怖いものなのだということは分かった。

黒々とした霧のイメージが私の中に膨らむ。


「よくは、分からなかったけど…なんとなくは、分かったわ」

「それでいいよ。でね、花嫁。この国の民を守る青珀の結界は、外からの侵入を防いでいるだけじゃないんだ。

この国は、元々古き魔のものだったんだけど、昔、青珀が北の果てに…この館の更に北の地だね。そこへ封じたんだ。

……あってる?」


途中、ハーゼオンはユゼに確認を取った。ユゼはおおよそは、とハーゼオンの話を肯定する。


「吸血鬼共が青珀に手を出さない一番大きな理由はこれなんだ。もちろん実力者で、黒刺に一目置かれていることもあるけど」



でもそれは黒の眷属にとって重要なことであって、それ以外の吸血鬼にはあまり関係ないしね、とハーゼオンは黒刺の眷属を馬鹿にしたような言い方をした。