「あいつと俺は、同格なんだ。同じ、黒刺の直系。歳は俺のがずっと上なんだけどね」


直系というのは、始祖吸血鬼に血を吸われた吸血鬼のことだ。

ハーゼオンは、まったく最近の若いもんはーとふざけたように言ったが、誰一人笑わなかった。

受けが今一つだったせいか、場違いな明るさを引っ込め、真面目な顔へ戻す。


「それで?」

「そもそも、吸血鬼は血の主に従順であるものなんだ。

だから、黒の直系でありながら、好んで黒と敵対し、黒と同じく色による尊称を持つ俺を、あそこの連中は快く思っていない。

と、いうか激しく嫌われてるわけ」

「更に同族喰いだしな」

「他の血を混ぜなきゃ、流石の俺も黒刺の血の呪縛から逃れられないからね。

…今だって、完全じゃない」


時々、自分が何人もいて、それぞれ別の方へ引っ張るんだよ、とハーゼオンは弱音を吐いた。それは、私にも身に覚えのある感覚だ。


ユゼに対して感じる、抗えなさ。

きっと、ハーゼオンも私と同じなのだ。

自分を飲み込もうとする内からの衝動。

そんなものに支配されている。


私の同情的な眼差しに気付いたのか、ハーゼオンはえへへっと笑った。


「そんな黒にとっては目障りで、戦力的にも劣る俺が、なぜ今日まであそこと渡り合って来れたか分かる?」


ハーゼオンの問い掛けに、私は思い当たることがあった。

ルーが言っていたはずだ。


「後ろ盾があったから?」


ユーゼロードという。


「その通り。黒刺が唯一一目置く存在、青珀が俺の後ろにいたから、あいつらは迂闊に手出しできなかったんだ。

まあ、小競り合いが起きて、決着の付かない時なんかは青珀に仲裁を頼んだりしていたけど」

「そうなの?」


ユゼの顔を振り返った。あぁとユゼは短く返事をする。


「どうしても相手に引いて欲しい時だけね。黒刺は自分の眷属の小競り合いなんか興味ないから、青珀がいるだけで脅しになる」

「そういや、その帰りに、俺は拾われたんだよなぁ」

「へぇ」


思い出したように、ルーがしみじみしていた。だが、すぐに我へ返る。


「っと、話を切った。悪りぃ、先に進めてくれ」