話題が途切れたのを見計らって吸血鬼は腰をあげる。

どこへ行くのかと尋ねるルーへ書斎にいると短く返事をした。

ルーは引き止めず、その背を見送っている。


「紫焔ってルーと何か関係ある人なの?」


先程の微妙な反応を思い出して、私は意味もなく小声で聞いた。


「え、いや…関係はねぇけど…」


煮え切らない答えである。


「いいから、朝食を食べて衣装作りに入ろうぜっ」

「なんっか怪しいわね」


私は笑いながらルーを眺めた。ルーは焦ったように首を振る。

私にさえからかわれるなんて珍しい光景だった。


「……苦手なんだよ、あの女…」


疲れたように肩を落としながら、ルーは少しだけ白状する。女の子に負けるルーを想像すると、なんだか面白い。


「吸血鬼も他人事だと思ってるみたいだし…ったく、いいから朝食食えよ!」


本気で怒りだしそうだったので、私は追及をやめることにした。


「分かったわ、もう聞かないから」

「…そうしてくれ」


どうやら紫焔とはよほどのことがあったのだ。ルーは触られたくない傷を隠している。



朝食の後、私たちは私の部屋で体の寸法を計るとこを始めた。

背が低いと思っていたルーが実は5センチも違わないことが分かったり、腕の長さはもっと差がないことに一喜一憂しながら時間が過ぎていく。

吸血鬼を驚かせるため、見つからないようなるべく早く、という難しい注文のため、私は急いで作業を進めた。

しかし、どんなに急いでも、一週間以上掛かりそうである。


「俺に手伝えることないか?」


採寸が終わったルーは目に見えて暇していた。

とは、言われてもまったくの素人に手を出せそうな作業は特にない。


「今のところは平気」

「役立ずで悪い。言い出しっぺは俺なのに」


ルーは椅子の背に顎をのせてしょんぼりしていた。


「わざわざ遠いとこまで布を買ってきてくれたじゃない」

「それぐらいどうってことねぇよ。俺の体は時が止まってるから疲れねぇし」


それは初耳だった。


「本当に?」

「あくまで体は、な。心の方は疲れる」