「他者の血を取り込み過ぎた影響で、あいつは自分でも自分のことがよく分からないらしい。
そのせいか時々不安定で、掴み所がなかったり、唐突なところがあるけれど、悪い奴じゃねぇから。
…まぁ、凄くいい奴ってわけでもねぇけど」
「いい人って言い切らないのね」
フォローをしているはずなのに、ちゃんと最後に付け加えるのがルーらしくて、私は少しだけ笑った。
その笑いを引っ込め、ルーと向き合う。
「それで、本題は?」
ハーゼオンの過去は、吸血鬼になった少女たちを預けても大丈夫だと、私を安心させるためのものだ。
でもそれは、本当に言いたいことではない。
ルーは始めに言った。
自分とハーゼオンは似ているのだと。
まだ、ハーゼオンの話とルーは繋がっていない。
ルーはふっと息を吐いて諦めたように椅子へ背を預けた。
「花嫁はなかなか鋭いな」
そして、ゆっくりと視線を落とす。
「黙っていようかとも思っていたんだが……。俺は、人狼なんだ」
じんろう。
口の中で反芻した。
私は聞き慣れない響きに眉をひそめる。
「じんろうって?」
ルーの動きが止まった。一瞬の間の後、ルーは手で頭を押さえる。
「そうか、この国はあいつがいるから、吸血鬼を知っていても、それ以外については知らないのか」
大きな声で独り言らしき発言をすると、ルーは私を見る。
「人狼ってのは、獣になった人のことだ。人狼に噛まれた人もまた、人狼になる。
習性の似た吸血鬼のなり損ないとか、病気の一種だとか言われているが、詳しいことは知らねぇ。満月期になると獣のように苦しんだりするという話もあるらしい。
なんにせよ、人狼はやがて獣の本能に人の理性が負ける」
ルーがその恐ろしげな人狼とやららしいが、上から下まで眺めても、人間の少年とは寸分も変わらず、どこにも獣らしい部分はなかった。
「俺は噛まれた後すぐ、青珀の吸血鬼に拾われたんだよ。…幸運なことに」