「それにしても、青様は起きてこないねぇ。やすやすと他の吸血鬼を侵入させるなんて、らしくない」
「この時期は結界が不安定だからな」
「あーそっか。それは大変だ。うーん」
ルーとのやり取りの途中で、ハーゼオンは小首を捻り何かを考え出す。
そして、緑の瞳で私を見上げた。
「花嫁のキスがあれば元気になるかも」
告げられた言葉に、私は動きを止める。予想外の言葉に体が反応出来なかったのだ。
そんな私に構うことなく、ハーゼオンは独り話を進めていく。
「キスが一番楽に生気を摂取できるんだよ」
子供のような無邪気さでハーゼオンが言った。しかし、何かに気付き、手をぽんっと鳴らす。
「あぁ、でも効率的に摂取するなら、やっぱりセッ…」
ガンッ、という鈍い音がハーゼオンの話を遮った。
ルーの肘がハーゼオンの頭へ容赦なく落とされたのである。
「すまん、お前の頭に赤茶色の虫が」
「……ってぇ。……ルー、多分それ俺の髪だ…。それと、俺がいくら吸血鬼とはいえ、痛みはあるから」
「知ってる」
頭を押さえながら、弱々しくハーゼオンが呟いた。本気で痛そうである。
「だ、大丈夫?」
私は様子を伺おうとハーゼオンに近づいた。
視線を上げたハーゼオンの顔は、いつの間にかひどく真剣なものに変わっている。
「……あのね、青の花嫁。吸血鬼が花嫁にするってことは、どこか気に入るところがあったからなんだ。嫌いな相手に自分の血を分け与えて、生気を貰うなんて絶対にしない生き物なんだよ」
私へ許しを請うような調子でハーゼオンが語り出した。
冷たい手が私の両手へ触れる。
強くない力が私を逃がさないよう、捕らえていた。