唐突な申し出に、私は返答に迷う。
ひとまずは本を見せて貰うことにした。本には、毎ページ男女の様々な衣装が並べられている。どれも見たことのないデザインだった。
ルーがいうには、この本は仕立屋に衣装を注文する時の見本代わりに使われていたものらしい。
どれも昔、街で見たドレスとはまったく形が違っている。本の隅にに書かれた年号は私の想像が及ばないほど古いものだった。
「こんなに派手なものは作れないと思うけど」
もう少し装飾を落として簡単な形にすればできなくもない。
村にいた時、花嫁衣装作りを手伝ったことがある。それを応用すれば、なんとかなりそうだ。
「…出来たらそれに合わせた、俺の衣装も作って欲しいんだけど」
「構わないけど、どうして?」
ルーはまた本へ視線を落とす。寂しい横顔が少しだけ笑った。
「多分、こいつは吸血鬼がまだ人との付き合いがあった時代のものなんだ。なんでこんな古い本って思ったけど、この館にはこれしかなかったんだな」
見るからに古い本だ。
だけどそれが、吸血鬼にとってルーの頼みごとを満たす一番新しい本だったのだ。
止まってしまった時。
何か言いようのない感情にが沸き上がってくる。同情のようで、そうではないような、曖昧さが心を乱す。
「だから、その時に一番流行っていた衣装を俺たちが着たら、あいつが懐かしんでくれるんじゃないかって思って」
ルーは遠くを見るような眼差しを私に向けた。