吸血鬼の方を極力向かずに立ち上がり、踵を返えして歩き出す。

背後から吸血鬼の視線を感じたが、気付かないふりをした。


「……食堂まで、連れていってやってくれ」


小声の命令は私へ向けられたものではない。

もっと親しみのこもった頼み方だ。


吸血鬼の言葉に呼応して、誰かがスカートの端をぐっと引っ張る。

私はそちらを向いたが、引っ張っている主の姿は見えなかった。

なのにまだ、こちらだと言うようにスカートは引っ張られている。

この感覚には、心当たりがあった。


「もしかして家妖精さん?」

「そうだ。また迷わないよう、そいつに案内してもらえ」


答えは、見えない家妖精ではなく、私の後ろから告げられる。


ルーの言った通り、吸血鬼には本当に見えているようだ。

後ろを盗み見ると、吸血鬼はもう私へ背を向けて歩き出していた。


「…ありがとう」


これは、家妖精への礼であって、けして吸血鬼へのものではない。


例えまだ、青い髪の吸血鬼に十分聞こえる距離だったとしても。